重度知的障害の子の言葉を増やすには?家庭・学校でできる支援方法を解説

  • 私の言葉を理解してくれているのかわからない

  • 子どもともっとコミュニケーションを取りたい

  • せめて、言葉での指示で動けるようになればずいぶん楽なのに、、

と一度は考えたことがあるのではないでしょうか。

重度知的障害のあるお子さんにとって言葉を理解することは、とても難しいです。
なぜなら「体系立てて順番に、言葉の理解につながるような課題」を長期スパンで組み立てなければ身につかないからです。

しかも、ただ課題をすれば良いというものではなく、子どもの実態と課題の目的、身につく能力を理解したうえで指導しなければなりません。

そこで今回は、9ステップにわけて重度知的障害のあるお子さんが言葉を理解し、ある程度指示に従えるようになる方法をお伝えします。

障害のある子に関わる人たちはどこまで理解して指導している?

でもどれだけ多くの支援者が「マッチングが言葉獲得に必要不可欠だ」と理解して説明できるでしょうか。
正直な話、僕がもし教員1年目の時に聞かれたら答えられませんでした。

おそらく、ほとんどの支援者は、残念ながら理解していません。
もちろん、認知発達を促すのに必要という理解はしていると思いますが、それ以上の理解をしている先生が一体何人いらっしゃるでしょうか。

もちろん、教員が怠惰だと言うつもりはありません。
僕の経験上、大学でも研修でも、(僕の受けた有料セミナーでも)教えてくれる機会はなかったのですから。

だから実際に、言葉を理解するのに時間がかかる子どもに、どのようにアプローチすればいいのか?
一生懸命調べて、考えているけれど「結局、何を教えたら言葉につながるのか分からない」と困っている支援者や保護者の方も多いでしょう。

しかし、適切なステップでアプローチすれば、言葉の理解を伸ばすことができます。
そして、それは以外にも普段取り組んでいる課題が、カギとなっているんです。

もし、
「この子には言葉の理解は難しいのかもしれない…」

そう諦めていては、成長のチャンスを逃してしまいます。 実は、言葉の理解には順序があり、適切なステップを踏むことで確実に言葉の理解の幅を広げることは可能なのです。

「何をすればいいのか分からない」という今の状況から、「どの順番で教えればいいのか」が分かれば、 子どもの変化を実感できるでしょう。
今回はその内容をお伝えしますよ!

なんとなくやっていたマッチング課題

僕が特別支援学校教員1年~3目のときには、

「マッチング課題が重要だって聞いたけど、マッチングができるようになって何になるの?」
「マッチングの次のステップて何をしたらいいんだ!?」
「この子はマッチングがまだ難しいみたいだけど、手前の課題って何だ!!?」

こんな風に悩みながら、課題をやっていました。(恥ずかしい限りです。。)

でも、僕の中で「確信をもって課題を設定したい!」
そして、「子どもと、もっとコミュニケーションを取りたい」
この想いで、たくさんの本と文献を読んでやっとまとめられたんです。

最初は「言葉の獲得」をテーマに書籍を探しましたが、1冊に体系立ててまとめらているのはなかったんです。

こんな課題をすればいいよ!という書籍はあるものの、
「なぜその課題を設定するべきで、のちのちどんな自立に必要な能力につながるのか?」
ここまで書かれている本は皆無でした。

そこで、言葉獲得の本だけでなく、認知発達、日常生活動作の獲得法などの本を、それぞれ照らし合わせながら、また自分が関わる子どもとも関連させながらやっとの思いで9ステップにまとめました。

と、いうことで!

本気でまとめてたどり着いた、

言葉の理解を促す9ステップを紹介します!

  1. 五感を刺激して興味の幅を広げる

  2. 目で物を追いかける力を育てる(眼球運動の向上)

  3. 目と手の協応を育てる

  4. 目から入った情報の認識力を高める(視認知)

  5. 見分ける力を育てる

  6. 見分ける力と視認知を同時に高める

  7. 抽象的な思考を獲得する

  8. 言葉の理解を促す実践的な課題①

  9. 言葉の理解を促す実践的な課題②
    →言葉の指示で物を取ってくることができる。

要するに、言葉を理解するには、抽象的な思考を獲得する事が重要なんですよね。
例えば、鉛筆。

「えんぴつ」という名前は人間がつけたものです。
なので、具体物(えんぴつそのもの)とセットにしなければ、ただの文字であり、ただの音なんですよね。

このように、言葉を獲得するには、えんぴつ」という抽象的な音から「具体的な鉛筆そのものをイメージできる力」が必要なんです。
ちなみに、これをシンボル表象機能と言います。

先ほど紹介したステップ1~7はその抽象的な思考を獲得するためのプロセスとなっています。
おそらく、この情報だけでも
「それならこの課題をやってみよう!」とアイディアがあふれてきている方もいらっしゃると思います!

中には、「あ、今関わっている子どもは5番でつまずいているな」と想像しながら読んでいただいた方もいるかもしれませんね。

ぜひ、持ち帰って実践していただければと思います。

さて、ここからは具体的な課題を解説していきます。

先ほど紹介した9つのステップを より具体的な支援方法と課題例、課題を設定すべき対象となる発達年齢とともに詳しく解説していきます。

✅ 子どもの発達段階に合った適切な課題を設定できる
✅子どもの言葉の理解を確実に促せる
「何のためにやっているの?」という疑問を減らせる。
「この課題に引っかかっているなら、先にこの課題からだな」「この課題はクリアしたから次はこの課題だな」と子どものつまづきに応じて課題設定を瞬時に変えられるようになる。

このような悩みを解決できることでしょう。

重度知的障害の子の言葉を獲得する9ステップ

では、お待たせしました!
ステップ①~⑨の課題をご覧ください。

【ステップ①】五感を刺激して興味の幅を広げる

対象:発達段階1歳~1歳半

言葉を獲得するためには、まず「興味の幅」を広げることが大切です。
僕らの発達のベースは生存本能と好奇心です。

生存本能による発達は、最低限の歩行などの運動機能や食事に対する意欲、不快感を表す表現力です。

これは中脳や小脳に障害がない限り自然に発達していきます。

しかし、もっとコミュニケーションを取りたい、いろいろな作業スキルを身につけて欲しい。
このような発達を促していく場合、意図的に好奇心を高めていくアプローチが重要です。

その方法が、五感を刺激する遊びをすることなんです。
五感の中でも、発達1歳~1歳半の子どもは、聴覚と触覚が特に認識しやすい時期ですので、音や揺れ、振動を感じる遊びをメインに考えましょう。

課題例

  • 打楽器を鳴らす

  • 震えるおもちゃに興味を持つ

  • おんぶで揺らしてもらう

  • 水遊びを楽しむ

音刺激や触覚刺激の中で好きなものが増えてきたら、徐々に目で見たものを認識する力が育っていきます。

もちろん、全く興味を示さず遊びが思いつかないということもあるかと思いますが、根気よく探してみてください。

※評価の観点(支援者向け)
「○○を楽しむ」「○○に興味を持つ」という目標を評価するのは難しいですよね。
基本的には、笑顔が見られたら楽しんでいるという評価になりますが、自閉症が伴っている場合、表情が乏しいお子さんもいますから難しいところ。

僕の場合、「自分から遊び道具を持ってきた。」
おんぶの場合「自分から大人の背中に近づいて、大人が座ると背中に乗る素振りを見せた」
などのように、自分からアクションがあれば「楽しいから自発的に要求した」と判断できると考えていました。

また「興味を持つ」の評価であれば、
「大人の誘いに応じることができた。」
が判断基準になるでしょう。

【ステップ②】目で物を追いかける

対象:発達段階1歳~1歳半

感覚刺激遊びを続けることで、だんだんと目で物を追いかけられるようになります。 これは興味の広がりとともに、目を左右上下に動かす力がついてくるためです。

具体的な課題例

  • スロープトイ:ボールや車を目で追いかけるおもちゃ(イメージ↓)

スロープトイ

  • 「どっちだ?」と言いながら物を手で隠し、子どもに当てさせる遊び
    ポイント!キラキラしたおもちゃを使うと注目させやすい。

 

【ステップ③】目と運動の協調性を高める

対象:発達段階1歳半~2歳
目で物を追えるようになったら、次は「目と手の協応」を高める段階に進みます。

目と手の協応とは、目で対象物を見ながら手で操作できる能力のこと。

目と手の協応が未熟な場合、目で物をとらえているときは手が止まり、手を動かすときは目が違う方向を向くいてしまうんです。

なので、意図的に課題を設定して発達を促す必要があります。

具体的な課題例

  • 棒差し
    この段階のお子さんの場合、手先の器用さが未熟なので、手のひら全体で握れるくらいの大きさの棒を用意しましょう。
    教材は、ラップの芯が丈夫でおすすめです。
    僕は段ボールをくりぬいて、トイレットペーパーの芯が通せるようにしました!

棒差し課題のイメージ
  • ハンマートイ(トンカチで叩いて押し込むおもちゃ)

ハンマートイのイメージ
  • 転がって来たボールを手で止める

いずれの課題も、目で見ながら身体を動かさないと、空振りをするなど目的を達成できない課題です。
始めは大人が子供の手を誘導しながら取り組みましょう。

【ステップ④】目から入った情報の認識力を高めるプットイン

対象:発達段階1歳半~2歳半

棒差しができるようになったら、次はプットイン(穴に物を入れる課題)に挑戦します。

プットインは、物を穴に入れる課題です。
手指の操作性の課題として扱われやすいですが、実は目で対象を見比べる視認知という機能を高める課題なのです。
これができることで、目で捉えてイメージする力を養います。

具体的な課題例

  • 1種類の物を穴に入れる

  • 2種類の異なる形の物を分けて入れる

  • 同じ種類でも大きさの違う物を入れる

  • 1種類の物を穴に入れる

  • 2種類の異なる形のものを分けて入れる

コイン入れとボール入れを同時に提示します。
「ボールは細い穴に入らないから、こっちの箱に入れる」
これを間違えずに入れ分けることができれば、目で物の形を認識して、適切な方を脳内で判断できているということです。

  • 同じ種類でも大きさの違う物を入れる
    下の写真は、大きいビー玉と小さいビー玉のプットインです。

プットイン課題の注意点

プットイン課題を始めたての頃は、「この穴に入らないなぁ。なら、こっちの穴だな」と一度間違えてから入れ直すという場面に出くわすと思います。

この状態では、視認知が育ったと言えません。
くり返すことでできるようになりますが、難しければ1つて前の課題に戻る必要があるかもしれません。

さらに注意してほしいのは次のパターン。

【5回、10回と続けるうちに間違えることなくプットイン課題ができるようになった。】
実は、これは暗記して課題ができるようになっただけというパターンがあるのです。暗記しているのであれば、認知機能が発達したと判断できませんよね。

特に自閉症のお子さんは同じパターンの物はすぐに覚えてしまいます。

そこで、次の課題に移るかどうかをチェックする方法もお伝えします。
工夫①プットインで使う教材の形を四角や三角、棒状のものに変える
工夫②箱を横並びではなく縦並びにするなど、場面を変える

このように少しの変化でも良いので、変えてもできるかどうかを必ず測ってください。

【ステップ⑤】見分ける力を育てる型はめ

対象:発達段階1歳半~3歳
型はめでは、より高度な「見分ける力」が求められます。

こちらは、プットイン課題の応用なので、注意点や目的はプットインと同じです。

なぜ、プットインより型はめが応用なのか?
理由は3つ。

・複数用意できる
・感覚入力の点でプットインよりも刺激が弱い
・マッチングへの移行がスムーズになる

理由①複数用意できる
理由は簡単で、型はめは同時に複数の形を用意して提示できる点にあります。
プットインだと多くて4種類程度の課題しか机上に用意できないですよね。
でも、型はめだと、数字の型はめ板を使えば0~9の形(10種類)を学習できます。

理由②感覚入力の点で刺激が弱い
また、プットインは物が入ったときに音が出るので、認知が育っていないお子さんでも、1つものを入れるたびに達成感を味わうことができるのです。
型はめでも、形に合うものを入れた瞬間の感覚は、もちろんありますが、刺激としては弱いので、発達段階的に考えると、プットインの方がより低年齢のお子さんに合っていると考えています。

理由③マッチングへの移行がスムーズになる
さらに、型はめは、次に解説するマッチングの課題とやり方が類似するのでスムーズに移行できます。

具体的な課題例

  • 〇△□の基本形からスタート

応用例

  • 形の種類を増やす

  • 提示する順番を変える

  • 立体を使う↓

※プットインでもお伝えした通り、自閉症の子どもはパターンで覚えてしまうことがあるため、順番を変えたり、異なる形を用意することが重要です。

【ステップ⑥】見分ける力と視認知を同時に高めるマッチング

対象:発達段階2歳~4歳半
マッチングは、対象のものを正しくペアにする課題です。 型はめよりも、より高度な「認識力」が求められます。

また、マッチングは4ステップを踏むことで、脳内でイメージするチカラ(シンボル表象機能)も養うことができる課題です。
シンボル表象機能とは、おままごと遊びや「あの雲、○○に見える」といった見たて遊びのように、目の前にないものをイメージするチカラのこと。

言葉の理解や発語につながる超重要な脳の機能なので、スモールステップで確実にこなしていってください。

マッチング課題の発展方法

1.具体物同士のマッチング

2.写真と具体物のマッチング

3.写真と写真のマッチング

4.写真とイラストのマッチング

これらのステップを経ることで、イメージ力を高めることができます。
特に4.写真とイラストのマッチングは、シンボル表象機能の獲得となる第一歩です。

【ステップ⑦】抽象的な思考を獲得する分類

対象:発達段階3歳~4歳半
マッチングができるようになったら、次は分類に挑戦します。

分類課題は、シンボル表象機能に直結する課題です
分類するためには、物の特徴や役割をとらえて、「色や形は違うけど同じと考えられる」という思考なので、ステップ⑥のマッチング課題をこなさなければ、できない課題です。

具体的な課題例

  • 乗り物・食べ物・動物など、カテゴリーごとに分ける
    箱の中にいくつかフィギュアを入れておき、同じ種類のフィギュアを分類させます。
    下の図を参考に準備してください。
    最初は、支援者が「うさぎはどっち?」と1つずつ提示しましょう。
    慣れたら、「分けてみよう」の言葉かけでできるようになります。

分類課題

レベルを上げたい場合は、箱の中にない種類のものを子どもに分類させます。 
例)下の課題であれば、たまねぎとトラのフィギュアを用意し、「どっち?」と尋ねるなど。

この課題も最初は具体物で行い。
慣れてきたら、イラストで分類させてもOKです。

  • マトリックス
    色と図形を対象させる課題です。
    僕は、図形とマトリックスの表をラミネートしてマジックテープをつけて教材を作りました!

この表をマトリックスといいます。

この2つの課題ができれば、言葉の理解をする脳機能の素地は作れています。これから、どんどん言葉を理解し、語彙や指示理解も進んでいきます。

【ステップ⑧】言葉の理解を促す実践的な課題①
写真を見せながら指示を出して物を取ってくる

対象:発達段階3歳~4歳半

分類ができるようになったら、実際に指示に応える練習をしていきましょう!

実践課題①では、写真を見せながら「○○取ってきて」と指示を出して、対象物を取ってきてもらいます。

取って来てもらうものは何でもよいわけではありません。
取ってくる意味も重要です。
教材の選び方として以下を参考にしてください。

子どもに持ってこさせる物の例

  • 課題学習に必要な道具を持ってこさせる

  • 課題学習後に遊びたいおもちゃを持ってこさせる

このようにすることで、子どもも「道具を持ってくる」ことに意味を感じながら取り組めるのでオススメです。
もちろん、歯みがきの場面や帰り支度の際に通学用かばんを持ってこさせるなど、日常に落とし込むのも効果的です。

遊びが好きなお子さんなら、【宝さがしゲーム】としてやってみるものGOOD!
とにかく、言葉と写真(イラスト)を組み合わせてやってください。

【ステップ⑨】言葉の理解を促す実践的な課題②
言葉だけで指示を出して物を取ってくる

対象:発達段階3歳~4歳半

最終段階では、写真を使わずに言葉だけで指示を出します。
ステップ⑧で使っていたものや日常的によく使っているものであれば、言葉だけで取ってくることができると思います。

重度知的障害のあるお子さんは、場面と言葉の響きをセットにすることで、なんとなく理解して応じている場合も少なくありません。

例えば、学校に行く時間に玄関に行き、「くつをはこう」と言われれば応じることができるけど、遊びに行った先で「くつをはこう」と言われても応じることができないというパターンはよくあります。

この段階で目指すところは、どんな場面でも「くつをはこう」と言われればくつをはける状態です。

もし、場面とセットでなければ指示に応じられないのであれば、今日ご紹介したステップの中のどこかにつまづきがあると思うので、探ってみてください。

※おそらく、マッチングの3番か4番あたりかなと思いますが、子どもによって違うのでマッチングの前後の課題にあたりをつけてやってみてください。

まとめ

今回のステップで、
「マッチングができないけど、マッチングができるようになるにはどんな課題をすればいいの?」
逆に、「マッチングができたら次は何をすればいいの?」

といった疑問のほとんどを解消できるかと思います。

  • できない場合 → 前のステップに戻って課題を工夫する

  • スムーズにできる場合 → 一歩先のステップに進める

ぜひ、お子さんの実態把握と、お伝えしたステップを照らし合わせて最適な指導計画を作ってください!

最後になりますが、子どもの発達には個人差があります。

1つずつ着実にこなすのも方法の1つですが、前後の課題を組み合わせるのも効果的です。
例えば1つ目はプットイン、2つ目は型はめという形式です。

ステップごとに分けてはいますが、ステップの前後は関係の強い課題ですので必ずしも順番通りにする必要はありません。
お子さんの苦手なところ、伸ばしたいところを見極めて組み合わせながら個別最適化を目指してください。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
ぜひ、実践してみてください!

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